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libra05's blog

映画を中心に、好きなものについて自由気ままに書いています

映画 オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分--「世界一行きたくない場所へ向かうさ」

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TSUTAYAで衝動借り、いいですね。作品との思わぬ出会いが楽しくて、POPに惹かれる言葉があればすぐに借りるようにしています。

さて、今回、そんな衝動借りをした作品はこちらです。

作品紹介

eiga.com

  • 原題:Locke
  • 2013年/イギリス・アメリカ合作
  • 86分

こんなときに観たい

  • 心の機微をメインにしている作品を観たいとき
  • 実験的な作品を観たいとき(固定カメラで車の運転席にいる主人公だけを写している、という映像が86分のほとんどを占めています)

 好きです。こういう実験的な作品!

あらすじ(ネタバレにならないようにふわっとしています)

夜に仕事を終え、自家用車に乗り込んだ主人公アイヴァン・ロック。
彼はあるメッセージを受けて、ある場所へと車を走らせることを決める。
車中で彼がかける電話、かかってくる電話から、彼が何のために、どこへ、何をしに行くのかが次第に明らかになっていく。

→以下、【続きを読む】より、感想(以下ネタバレあります)に続きます!

感想まとめ(以下ネタバレあります)

予想とは異なる物語ではありましたが、86分間、大いに楽しめました。

主人公アイヴァンはすべてを捨てて、表題にあるとおりの「行きたくない場所」へ向かいます!


ストーリー ・・・ 8点/10点

キャラクター ・・・ 7点/10点


おおざっぱにいうと、ロックが、一夜の過ちで妊娠させた浮気相手がロンドンの病院で間もなく出産すると聞いて、仕事も家庭も失う覚悟でそこに駆けつけることを決め、電話で関係者たちにいろんなお詫びをするというのがストーリーです。文章にすると「なんてばかなの…」と切なくなります。

また、彼は亡き父親の影を常に感じており、誰もいない後部座席に向かって、「ろくでなし」やら「俺はお前とは違って、失敗の責任を取る」やら吐き捨てます。詳細は明かされませんが、父親を深く恨んでいますここが、物語のキーポイントになります(後述)。


静かなヒューマンドラマ
本作のキーワードとなる「ほぼ全編密室」「主人公1人きり」「電話」「サスペンス」。これらのキーワードでぱっと浮かんだのはコリン・ファレルの『フォーン・ブース*1

本作はそれとはまったく異なるヒューマンドラマ(と私は解釈しております)で、彼の決断によって影響を受ける職場の同僚たち・浮気相手・家族たちとの関係性が刻々と変化していく様子をじんわりじんわり描いていきます。まるで、不意にできた水面の波紋をじーっと眺めるような感覚の作品。
そう、とても静的な作品なんです。


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(この点は、演出〔後述〕でもう少し触れます。)


「順風満帆な人生を歩んできた男の転落」ではない
ここは思うところが多々あるので、少し長めに書きます。

ロックが大事にしたかったもの=この作品のストーリーの主軸はどれなんでしょうか? 仕事? 浮気?

私は、自分を大事にしてくれなかった父親への反抗なのではないかと考えています。

仕事を投げ出して浮気相手のもとにいくのは、父親への気持ち(「俺はお前とは違う!」)ゆえです。
だから、急ぐことよりも、行くことに意味があった。高速道路ではずっと他の車に抜かされている(制限速度を守り続けている)ことからも、そう解釈できます。

結局、ロックの優先順位はこうだったのではないでしょうか。

  1. 父親への反抗(恨み)
  2. 仕事
  3. 家族
  4. 浮気相手

たった2時間のうちに仕事と家族を失いますが、上記の順位を守る強い意志で行動していた彼には、覚悟済みだったのでしょう。
彼の望むとおりに行動ができたのは確かなわけで、そうすると「順風満帆な人生を歩んできた男の転落」とまでは言えない気がしてきます。

家族の順位が低いのではなく、父親への思いと仕事への思いが高すぎたのです。彼の判断には賛成できませんが、子どもが死にそう!というほどのレベルのことがなければ、順位は動かせなかったんだろうな…。

人生とは、得てして、周囲の人から見たら「なにそれ?」ということが(優先順位がベースとなり)衝動となって自分を突き動かし、変化を生むことがあります。
ロックの決断には賛成できませんが、彼のことを甘ったれで腐ったただの大馬鹿者とまでは思えません。

それまでどんなに理性的に生きてきても、とんでもない決断をすることをがあるのが人間で、これが人生なんだなぁとしみじみと切なくなってしまうのです。父親の強い呪縛から解き放たれてくれアイヴァン・ロックよ…。


一番かわいそうなのは
呪縛から逃れられないロックも、電話を受けるどの相手も、みんなかわいそうなのです。が、彼の妻カトリーヌの苦しむ様子が一番印象に残っています。

夫婦の会話から、結婚して15年であり、家族みんなでサッカー観戦をするような仲良しであること、これまで一度も裏切りはなかったことがわかり、観ているこちらも「こんな幸せな家庭を『寂しさゆえの一夜の過ち』で壊してどうするんだ馬鹿者!!!」と叫びたくなります。

ロックの告白を受けた妻は動転し、トイレにこもったり、怒鳴ったり。そして、結局はロックを許さないと決めるのです。それはそうですよね…。

彼女は、その心情を「強盗に入られた気分」と表しました。突然知らない人に人生が奪われてしまったような感覚。言い得て妙ですね。セリフでも魅せる作品だなぁ。


結末は…
アイヴァンは息子のエディが内緒でかけてきた電話をあえて取らず、留守電録音モードでその声を聞き、静かに涙を流します。
そして、無事にハイウェイの走行を終え、無事に生まれた赤ちゃんの声を聴き、安堵の表情を浮かべたところで結末となります。

やはり終わり方もドラマチックではありませんでした。最後までしっかりとその静けさを守ってくれてよかった。


だから何なのさ?と思う人もいるかも
ただ、あまりにすっと終わってしまうため、結末を見ても「だから何?」という感想を持つ人もいるかもしれません。
86分間変化の少ない映像に、ここが見せ場!という物語の大きな波を感じることができないのは確かです。


演出 ・・・ 9点/10点

会話だけの86分間
何の説明もなく、会話からだんだんと状況や登場人物の人となりが明らかになっていく、というのは本当に面白かった!!
説明的なセリフがないぶん、どの言葉も聞き逃せず、86分間、画面にくぎ付けでした。

BGMは少なく、パトカーのサイレン、車体の揺れる音だけが響いてきます。夜のけだるさを感じ取れて、とても良かったです。


これが人間なのよ…
ドラマチックに描ける題材を、淡々とした静かな(控えめな)演出で見せているのもとてもよかったですね。なぜなら、際に人生の分岐点となる決断を下した瞬間というのは、そんなにドラマチックなものじゃないと思うからです。

本作では、作品の冒頭で信号待ちをしていたときが「全てを失う覚悟で今から浮気相手の出産に立ち会う」と決断した瞬間に当たっていたのでしょうか。
2回目の鑑賞で確認してみると、1回目では理由がわからなかったロックの悩ましい表情の持つ意味がよく感じ取れます。

決断を受けたことで周囲も自身も変化していく。本作では、その時間をそのまま、まるでなまもののように切り取って作品に仕上げているんですね。
砂漠のように乾いてサラサラと形を変える虚しい人間模様が響いてきます。でも、これが人間なんだよなぁ(2回目)としんみりしてしまったり…。



キャスティング ・・・ 10点/10点

唯一の登場人物である主人公を演じたのは、トム・ハーディです。『マッドマックス』や『チャイルド44』ではそこまで魅力を感じていませんでした…
家族との関係は良好で、上司・部下からの信頼も厚かったということが納得できる、誠実な雰囲気をしっかりと醸し出しつつ、声と上半身だけの演技で喜怒哀楽を表現しきっています。

冷静沈着にじっと耐える場面もあれば、亡き父親への呪詛が始まり、もしかしてクレイジーな人?と不安を誘う場面もあり。限られた時間と状況だけで、主人公の人間性がよく伝わってきました。
すごかったです。キャスティングは大成功だったと思います。




トム・ハーディ出演作、また、実験的作品をもっと観てみたくなりました。あと、浮気はだめ。絶対。

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*1:主人公の生死が謎の男の手にかかっており、電話ボックスから出られない!というドキドキハラハラのサスペンスです。コリンのやんちゃな感じ、久しぶりに観たくなってきたなぁ。eiga.com