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libra05's blog

映画を中心に、好きなものについて自由気ままに書いています

映画 顔のないヒトラーたち--「嘘と沈黙はもう終わりにする」

kaononai.com

  • 原題:Im Labyrinth des Schweigens
  • 2014年/123分/PG12

「嘘と沈黙はもう終わりにする」

Ⅰ.ざっとあらすじ

アウシュヴィッツ裁判を実現させるまでの検事のたたかい。

第2次大戦から十数年後のフランクフルト。主人公は、徹底した法の遵守と真実の追及をモットーに、駆け出しの検察官としての日々を送っていた。
ある日、規則に違反し、アウシュヴィッツ強制収容所の元親衛隊員が教師として働いていることを知った主人公は、その調査の過程で初めて収容所の正体を知る。

伏せられてきたドイツの黒い歴史、ナチスが収容所で行っていたこと。次々と明らかになる真実を前に、主人公は、彼らの行ったことを全て明らかにし、裁きにかけることを決意する。

しかし、それは自分を含めたすべてのドイツ人に対して、「正義とは何か」を問い直し、叩きつけることになるのだった。

フィクションを交えた実話で、メインは裁判までの過程。これが正面から描かれるのは初めて、とのことです(公式ホームページより)。

これまでに読書/鑑賞した作品
ここで、これまでに読んだり、観たりしたナチス強制収容所に関する作品で、記憶に残っているものたちを挙げてみます。以下の作品紹介や感想などをお読みになる際に、私がどんな予備知識を持っていたかということの目安にしていただければと思います。

・夜と霧
・フューリー
サウンド・オブ・ミュージック
アンネの日記
戦場のピアニスト
ライフ・イズ・ビューティフル
ミケランジェロ・プロジェクト
イングロリアス・バスターズ(あれブラピだらけ…)



Ⅱ. こんなときに観たい!

「戦争」について理解を深めたいとき。とても勉強になります。
疲れてなく、それなりにパワーがあるとき。ご飯を食べていないとき。



Ⅲ.作品について

(以下、公式ホームページのイントロダクション記載の範囲内で、作品の内容に触れています)

Ⅲ-1.気になる登場人物・俳優

アレクサンダー・フェーリング(主人公ヨハン・ラドマン)

背筋はぴんとして、所作も美しく、目元は涼しげ。ロボットみたいな無機質な雰囲気もある主人公。この身のこなしや醸し出す雰囲気がなければ、映画はここまで味わい深いものにならなかったかもしれません。

さて、そんな主人公ヨハン・ラドマンを演じたのは、ドイツ人のアレクサンダー・フェーリングです。

ドーベルマンのようなシュッとした綺麗な顔をしてます。
初めて見る役者だなぁと思っていたら、『イングロリアス・バスターズ』(2009)ではナチスのメンバーを演じていたんだそう。『イングロリアス〜』はDVDを借りて観たはずなんですが、期待値が高すぎたせいで、「え〜なんかグロい〜…」という、薄い感想しか残っておりません…。
改めて鑑賞する気にもならないので、『ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』(2010)を観てみようかなと思います。シュッとした高貴な雰囲気が作品に合っていそうです。

そして、本作品は賞をたくさん取っているのですが、その中の一つ、バイエルン映画賞主演男優賞を受賞しています。

ヨハン・フォン・ビュロー(ハラー検事)

気になったもう一人は、ハラー検事を演じるヨハン・フォン・ビュロー

彼の持つなんとも言えないむきタマゴ感が、緊張感をほどよく緩和させてくれます。画面に出てくるだけでどこかホッ。
彼はなんと、次に借りてこようと思っていた『ヒトラー暗殺、13分の誤算』に出演しています!またタマゴちゃんに会えるんですね。よかった。
13minutes.gaga.ne.jp

Ⅲ-2. 見所

初めて描かれる裁判までの出来事

見所の一つは、やはり、初めて正面から描かれるアウシュビッツ裁判までの過程です。
裁判をこぎつけるまでの検察官の闘いを描いています。鑑賞により、この立場、この時期から見たドイツの現実を初めて知ることができました。
戦争教育が進んでいるイメージがあったドイツでも、こんな時期があったんだと驚きました。そして、実話であることを信じたくないほど、悲しく苦しい過去が存在していることをまた実感しました。風化させちゃいけないことが本当にたくさんあるんですよね。

「嘘と沈黙はもう終わりにする」

なーにも知らなかったところから、「みんな忘れたがっている」「ナチの残党はそこらじゅうにいる」「捜査は無駄だ」と言われるなかで、決して諦めず、アウシュヴィッツに関する膨大な資料を調べ、証言者たちの声を聞く主人公の様子には、ただただ感服します。その姿に勇気がもらえる作品です。
「嘘と沈黙はもう終わりにする」という決意の言葉、かっこいいです!

劇中のBGM・ファッション・インテリア

ファッション、インテリアがとてもおしゃれ!
賑やかなシーンなどの華やかなBGMもすてきでした(検索しても見当たらず。日本でサントラは発売していないのかもしれません。)

ファッションでは、とくにヒロイン・マレーネの可愛らしく上品な着こなし、ビビットカラーをうまく取り入れた小物との色づかいなどには目を奪われます。彼女がいま街で歩いていたとしても十分おしゃれ。参考になりますよ。

ちょっとしたシーンのお部屋のインテリアもおしゃれです!主人公の部屋は散らかっていてもなんであんなに「それもインテリアの一部ですから」感が出るんでしょうか…。

戦争に関する実話であり、重厚な作品ですが、味わい方はそれぞれ。とくに二度目の鑑賞なら、これらにあえてフォーカスしてみるのもいいと思います。





Ⅳ.感想

(以下、ネタバレあります)







あらやだサスペンスじゃなかった!

DVDジャケット裏のあらすじを一切確認せず、店内のポップだけを見てレンタルしたため、タイトルから勝手にサスペンスやらスパイものだと予想してしまいました。
なので、検事総長がとんでもなく悪い黒幕だと思って、彼が出てくるたびに笑顔や発言をいちいち疑ってしまいました。ちょっと恥ずかしい。

たしかに、主人公たちを妨害しようとするナチスの残党らしき影にはドキドキさせられます。そして、権力者たちがアウシュヴィッツに関係した者たちに守られているという状況がわかり、鑑賞しているこっちが、うっすら、ずーっと「何か起きるんじゃないか」という緊張感に包まれる感じはあります。

でも、結果として、主人公や周りの人たちの命が脅かされるようなことはなく、ただ協力者だったBKAのフィッシャーさんだけが「若い世代は忠誠心がない」ということで謹慎処分になってしまうくらいです。

ラストの、裁判が開廷するシーンで「本当にやばいことは起こらなかったなあ」となぜか狐に包まれた気持ちになっていました。
あくまでも、主人公ヨセフ自身の苦悩や葛藤の方に焦点が当たっているんですね。

マレーネの存在と「水面」

ヒロインのマレーネのことは、作品冒頭の登場シーンから最後まで好きになれませんでした。

外見はとても好みなのですが、初対面で自身の交通違反による罰金をどうにかしてくれなかったヨセフに怒る、という自己中心ぶり。(自分がヒロインの立場でどうにか許してくれる検察官がいたら、かえって失望し、信頼が揺るぎます..。)

彼女を好きになれないので、ヨセフとヒロインとの恋愛シーンもいらなくない?と、ラブシーンもそれはそれは冷ややかに観ていたのですが、このヒロイン、やっぱり必要な存在だったんですよね。

それは、捜査を進めるにつれ、ヨセフがアウシュヴィッツに囚われ、苦悩し、孤立していく姿

仲間と楽しく騒ぎ、大好きな洋裁を活かしてお店をオープンさせ、人生を謳歌しようとする彼女の姿

を対比すると、お互いの立ち位置が際立ち、作品に、さらに深みを与えているように思えたからです。


ただ、アウシュヴィッツ収容所でどんなことが起きていたことかということさえ知らなかったヨセフ。その強い正義感ゆえに、アウシュヴィッツに執着し、精神的に崩壊してしまいます。

そこまでにはならなかった、アシスタントのおばさまも、同僚のハラーも、同じです。被害者の声を聞くことは、まるで、目の前の水面に顔を浸けるようなこと。一度顔を浸ければ、そこに見える世界の存在を無視できない。
被害者の声を聞いて水面に顔を浸け、被害者たちがいる「恐ろしい過去」という水中の様子を知ってしまった。もう、そこに顔を浸けたことがなかった頃のように、世界を見ることはできません。

そして、水面とその外は常に接着しているにもかかわらず、水中をまだ見たこともない若い世代が、水面のすぐ外に当然のように存在しています。水面に顔をつけることすら知らない人もいる。
目の前にいるけど、遠い存在。若い彼らは無知で無邪気でした。その存在の代表が、マレーネなんだなぁと感じたわけです。

もともと、若い世代の人たちは、経済が発展し、明るくなった西ドイツのなかで、過去の凄惨な歴史にとらわれることなく暮らしています。
経験せず、知らないことが恥ずかしいことだとは思いません。だって、親世代が知らせようとしなかったという側面もあるから。


そして、主要なキャラクターでいえば、マレーネ以外はみんな、水面に顔を浸け、あるいはずっと昔から水中にいるんですね。

みんながプールにいるのに、あるものはゴーグルをつけ、水面に顔を浸けたり、潜ったりしている。ある者はゴーグルさえ持たず、水面の下にも気づかずに楽しく浮き輪で漂っている。表現するのが難しいのですが、過去の歴史に対する登場人物の立ち位置として、こんなイメージを抱きました。

だからこそ、まだ水面に顔を浸けていないマレーネの存在が必要だったんだな(恋愛の要素は別として)と、納得したわけです。


そんなカップル2人の対比について、観ているのも辛かったシーンがあります。

連日、証言者からアウシュヴィッツであった惨劇の様子を聴取し、疲弊していくヨセフ。すり減っていく彼の心を表すように、もともとロボットぽかったその顔立ちが、どんどん冷徹になり、声も荒げるようになります。

一方で、聴取の度に悲惨な過去を追体験していく渦中にある彼とのベッドシーンでマレーネは、
「人生ってすてきね」
とささやくのです!!!!

もう、観ているこっちは、ウワー!やめたげて!!!!泣ですよ。

水面に顔さえ浸けていないからしょうがないのですが、ヨセフにとってはその言葉が残酷すぎるようにすら思えました。辛かったなあ。

目の前にいるのに隔たりがある二人。抱えているものが大きすぎて潰れそうなのに、それでもマレーネとデートして、彼女の夢を応援し、絶妙にアシストしてくれるヨセフはすごい!器が大きい。こんな息子が欲しい。

そりゃあお酒も飲みたくなりますよ。酔っ払って「あんたもナチか?」と街中で通行人にふっかかるシーンでは、ワイプで泣く柴田理恵みたいな表情になっていました。そりゃ辛いよね、そうだよね。

誰も悪いわけではない、と思ってはいるのですが、ついついマレーネにムッとしてしまうのでした。でも、外見は本当に好みで、とても美しいです。

グニルカがいてよかった

彼が実はアウシュヴィッツの見張りの兵士だったという驚きの展開があってよかったです。そういう加害者の立場や声をそれまで描いていなかったから。
ラストのクレジットで明らかになるのですが、アウシュヴィッツ裁判で有罪判決を受けた17名は誰一人、自責の念を述べなかったそうです。
そういう人たちがいる一方で、グニルカのような人もいる。被害者と同じように苦しんでいる存在もいること。これが少しでも描かれていてよかったです。

ただ、見張りの兵士だと明かしたあとのグニルカはちょっとしか描かれていないような気がします。
彼の様子をもう少し見せ場として長めに描くか、もう少し、そういう立場の登場人物がいてもよかったなあと思います。

「 顔のないヒトラーたち」というタイトル

声を上げずに人知れず苦しみ続ける被害者たち、また何事もなかったかのように日常生活を送るアウシュヴィッツの元関係者たち。彼らが同じ街で、一見、同じように暮らしているという事実には戸惑いを覚えます。

観ているこちらもヨセフと同じく、証言を聞くたびに加害者への怒りを増すばかりですが、また、誰が加害者で被害者なのか? という線引きはとても難しく、その感情はただ「怒り」というだけでは説明できません。
そして、敬愛する父親ナチスの党員だったと知ったヨセフはとうとう自分を失ってしまいます。(このとき自分は柴田理恵モード全開でした。)

当時は、党員でなければ命すら危なかった。でもまた同時に、党員であれば、例えば書類一つにサインするなどという間接的な形であっても、被害者に与えられた苦痛に加担していたと言えるのでは?

そうと考えると、裁くことの難しさが浮き彫りになります。
この定義に沿って言えば、ヨセフの「ドイツ人は永遠に黒を着るべきだ」という言葉のとおりに、自らの意思とは関係なくやむを得ず党員であった者たちもひっくるめて全員が「顔のないヒトラーたち」。難しい…。


この作品で、自国民が加害者であり被害者である戦争を裁くことの葛藤や苦悩を少しでも知ることができてよかったです。多くの若い世代の方にも観てもらえますように。
また、「顔のないヒトラーたち」というタイトルが示す事実を、次の世代にも伝えられるようにしないといけないですね。「戦争が忘れられる」ということがどんな悲惨なことなのかということを痛感しました。日本の歴史も、世界の歴史も、もっともっと知っていきたいです。


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