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libra05's blog

映画を中心に、好きなものについて自由気ままに書いています

読書 ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』

蒸し暑いですね。
太陽が眩しすぎる!と日焼け止めを完璧に塗ってやっと出かけたのに、叩きつけるようなどしゃ振りに濡れて帰ってくる日もあり…
気性の激しい空に振り回されているような今日この頃。

涼しい室内で静かに読書するのにはちょうどいい季節になりました。(もちろんDVDも!)


さて、2回目の読書感想記事です。
ゆーっくりゆっくり読んで、つい先日、最後のページを閉じたのはこちらの書籍です。

作品紹介

ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』
www.shinchosha.co.jp

  • 単行本/245ページ
  • 新潮社
  • 発売日:2015/8/27
  • ノンフィクション

この本を手に取ったきっかけ

大きな目のトラや猫の写真が並ぶ表紙。平積みの台でもとても目を引きました。

装丁に目を奪われ、さらに帯に目を落とすと..

映画の脚本執筆に行き詰まっていた著者は、フリーペーパーに売買広告を出す人たちに、電話をかけ、家を訪ね、話を聞く。

「映画!」「行き詰まっていた!」
目を引く装丁だけでも十分でしたが、さらに大好きな言葉と共感できる言葉を見かけ、さっそく衝動買いです!

著者紹介

略歴

著者のミランダ・ジュライの略歴です。

2005年、脚本・監督・主演を務めた初の長篇映画『君とボクの虹色の世界』がカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞、大きな注目を浴びる。2007年、初めての短篇集『いちばんここに似合う人』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2011年、2作目の長篇映画『ザ・フューチャー』および『あなたを選んでくれるもの』を発表。2015年には初めての長篇小説The First Bad Manを刊行した。2012年に長男を出産、夫で映像作家のマイク・ミルズとともにロサンジェルスに暮らす。
(上記版元HPより)

長編映画に短編集、そして今回の著書…と多彩な才能を発揮し、活躍するミランダ。
クリエイティブな世界にいるだけでも大変でしょうが、さらに自分だけのフィールドを広げていく力のある方なんでしょうね。


そういえば、『君とボクの虹色の世界』はレンタルしようとして「やっぱり今度にしよう」と止めたことが何回もあった作品でした。そろそろ観てみようかしら…



人柄
さて、こんな華やかな略歴から、「安田成美みたいな穏やかで芯のある大人の女性なんだろうな」と(ものすごく)勝手に想像をしていましたが、本書を読んで全く違うタイプの方だとわかりました。

彼女は、創造することが好きで、落雷を愛するように自分の直感を信じ、少しだけ斜に構えていている。そして、そんな自分のことを冷静に分析できる人のようです。

使っていない自分の家から、長く放置していた自分の持ち物を彼氏の家に運ぶ時の心境を、こう書いています。

高校で髪を刈り上げにしたときや、大学をドロップアウトしたときもこうだった。発作的だし、悲惨なことになるのは目に見えてるけど、もうどうにでもなれ、だ。(p.6)

結構やんちゃな学生時代だったのかしら。(安田成美が薄くなって消えていく)

あらすじ

映画脚本の執筆が思うように進まないミランダ。彼女は、毎週届くのを楽しみにしている小冊子、「ペニーセイバー」に目をつける。


それは、自分の持ち物を売りたい人が少額で広告を出すことができる、紙媒体限定のフリーペーパーだった。


ネットの世界にこもり無気力な時間を過ごしていた彼女は、筆を進めるきっかけになる何かを見つけるため、記事を掲載している人たちにインタビューを行うことを思い付く。


インタビューをとおして、ミランダの執筆は、そして彼女自身は、どう変わっていくのだろうか。


ということで、
本書は、彼女の取材申込みに応じてくれた、(個性が強い)老若男女12人のインタビュー集です。


しかし、彼女自身のこともまさに「隈なく」書いていますので、自身を入れた13人分の生き様が垣間見れるインタビュー集と言えるかもしれません。


帯には、「胸を打つインタビュー集」と記載されていますが、ここは、「うーん?」という感じです。

彼らの受け答えには、不思議な気持ちになるものや、少し気味の悪さを感じる部分もあったりします。そういう意味で胸に何かが残りますが。
相手は生身の人間であり、短いインタビューによる記述ですので、そうなるのも当然だとは思います。

→以下、【続きを読む】より、感想に続きます!

感想

冒頭の低空飛行に「わかるわかる!」
本作品はミランダの一人称で、まるで日記のような文体で綴られています。

冒頭のパートでは、誰しも一度は経験したであろう、1ミリのやる気も出ない低空飛行の日々について書いていて、とにかく「わかるわかる!」と共感できました。

あと一歩でゴールなのに、なぜか頭も体も動かない。はやる気持ちになぜか蓋をして、関係のないことばかりしてしまう。そんな状況をこうつづっています。

そんなわけで、わたしはもうすっかり信念もへったくれもなくなっていた。地面に倒れてアリを見つめていた。
……わたしは陰気に家事に精を出すようになった。大きな音をたてて皿を洗った。こみ入った料理を作り、嫌悪と絶望をあらわにそれを出した。どうせ今のあたしにはこれしかできないみたいだし。

(p.9-p.10)


ああこの気持ち、わかるわかる!!地面に倒れているのがわかっていても、何も手を打てない、モヤモヤとした感じ。

才能豊かな人でも、こうやって苦しんでいるんですね。
だからこそ、執筆が進むきっかけになるであろう、何かに縋りたかった。そして、それが「ペニーセイバー」だったというわけです。



正直すぎて
写真数枚とともに、インタビュー、そしてそのときミランダが感じたことが書かれていきます。

上記で引用したとおりの、「綺麗に、いいように見せよう」と取り繕わない言葉たちはラストまで続いていきます。「密かに思っているけど誰にも絶対言えない」部分を不意打ちに覗きこんでしまっているよう。

なんだろう、流鏑馬を見ているような、そんなクセになる文章で、読んでいるだけでスカッとします。自分の気持ちをとことん素直に追っている、というのは少し羨ましくもなります。

この点、(翻訳の仕方も関わってくるでしょうが、)アクが強いのは確かなので、まずは試し読みをして自分の感覚との相性をチェックしてから購入すことをおすすめします。本体価格2300円ですし…



12人の「生きる姿」
インタビューをした12人は、ペニーセイバー利用者のほとんどと同じように、パソコンを持っていませんでした。
そして、彼らはミランダを家にあげて、インタビューを受けます。この条件の時点で、個性的な人が登場する可能性は結構高まっていますよね

家の庭でウシガエルのおたまじゃくしを育てている高校生男子。ガレージセールで赤の他人の写真アルバムを買い漁るギリシャ移民の主婦。いろんな珍獣を育てて家の中が動物園化している女、足首にGPSをつけられた、子供向けの本を売る男…。
(帯より)

12人に聞いてみると、それぞれ、幸せだったり、そうではなかったり、もうばらばらです。

でも、多かれ少なかれ、うっとおしくてどうしようもできない物事をかかえ、たいして真新しいことがない多くの日と同じように、その日を過ごしていました。

ミランダの内面のもがき、そのためにできたのであろうストレートな質問。
彼らの話や写真で切り取られた「生きる姿」が胸に響いてきます。


みんなそんなもので、「なんだかなあ」と思いながらもがいてるのは、自分ひとりじゃないんですね。
SNSで繰り広げられるキラキラした世界とは100%交わることのない現実。その存在に、少し安心できた気もします。



最初に出会ったマイケル

12人のうち、最初にインタビューをしたのは半年前から性転換を始めたというマイケル。
生活保護を受けており、60代にして性転換を決意。毎日幸せで、手術をやり遂げることだけが今の望み、と話す彼は、写真からでも個性の強さを感じ取れます。

圧倒されたミランダは、彼に会った感想をこう記しました。

彼の迷いのなさに、わたしは目が覚めた思いがした。心が軽く、背筋がすっと伸びた気がした。このほとんど不可能に近いチャレンジに彼が信念をいだいている証は、いたるところにあった……
……一つとして降参の白旗はなかった。彼は誰かみたいに旅の終わりに眠くなったりなんかしない。それどころか、長い人生経験の果てに、自分の本当にしたいことをつかんだのだ。

(p.25)


幸せなことに、初取材はネットの世界では会えない、強烈な光を持った人たちがここにいる!と彼女に衝撃を与えました。

衝撃は、ただ直接本人の話を聞いただけじゃ、生まれなかったのかもしれません。

赤の他人であるミランダがその人が住んでいる家に入ったことで、その中に漂う空気、選ばれそこに置かれているモノたち、そんな中に、突然、身を置くことになった。そうすることで一瞬でも、彼らの人生に生で触れた。しかも全身で触れた。そんな感覚があったのだと思います。


こうして、もっと『生』に触れたい!!という気持ちのもと、彼女はインタビューの旅を決定したのです。



最後に出会ったジョー
インタビューを脚本に有効利用しようとして失敗したミランダは意気消沈し、現実逃避としてしか意味がなかったインタビューを終わらせようと決意します。

こうして最後の一人として出会ったのが、元ペンキ塗りのジョーでした。


81歳のジョーは、片付けられたきれいな家に住み、これまでに飼ったたくさんの猫と犬を愛していました。彼らのおもちゃをずっと大事に保管しているのです。
そして、亡くなった知り合いの上着を、繕いながら4000回ほど着て、まだ大事にしていました。
また、何年も前から、その上着を着て、体が不自由なご近所さんのために買い出しを行っている、とのことでした。

ジョーの存在は強烈だった。
ジョーはまるで強迫観念にとりつかれた天使のように、がむしゃらに善をなそうとしていた。彼とは今日出会ったばかりなのに、何の義理もいっしょの思い出もないはずなのに、もうそんなことは忘れかけていた。

(p.203)


ペットたちや知り合いの死、体が不自由なご近所さん。彼自身の死への覚悟もそこにあったようです。
何個もの死を実感させられ、また、ジョーの終わりのない優しさに触れ、ミランダはまた大きな落雷にあったのでした。


インタビューは別の理由から終わりを迎えることになりました。
ミランダはジョーを本人役で出演させることに決め、映画『ザ・フューチャー』の脚本と撮影を無事に終えることができたのです。
www.the-future-film.com


そして、映画を仕上げた報告のために、ジョーに連絡をすると、彼が亡くなったことがわかるのです。
まさかこんなことになるだなんて、本当にショックでした…。せめて、映画で彼に会えるのはよかった。

一瞬、ノンフィクションだということを忘れてしまうような悲しい展開だったのでした。




まるでミランダそのものの中を覗いて、彼女のインタビューを追体験するような作品。
少し難解で、捉えどころがなく、はっきりと何かをつかんだ感覚を得ることができない部分もあり、記事を書くのにとても苦労しました。
何度も書いては消し、途中に映画を2本鑑賞し…、結局、予想以上に分量が増えてしまったのですが、もうこれ以上の力はないな、とこのまま掲載することにしました。


他の11人も強烈だったけど、ジョーのような人に直接会ったら、自分はどう感じるのだろう。
やはり、「限られた時間でどう生きていきたいか」ということについて、何か閃きを得るのかもしれません。

そして、閃きを得ることがなくても、彼らのような人たちに触れることで知らず知らずのうちに私の脳が刺激を受け、それが遠い先でも、何かの閃きにつながるのかもしれません。

自分とは異質の存在に触れること。そこから正直に感じたものを大事にしてあげること。
ネットの世界だけではきっと得ることができない、頬を叩かれるような刺激とその強さを垣間見た気がします。

しばらくは、こうやって自分を形成していきたい衝動に駆られたままになりそうです。


ミランダはこの体験をどう映画に写したのでしょうか。早速鑑賞してみようと思っています!